壁に、鯛が泳いだ。
― 鮨と和の食 清吉 60周年記念壁画プロジェクト 第1回 ―
福岡市早良区原。
1967年から、この場所で鮨と和食を続けてきた「鮨と和の食 清吉」。
店の前には、道路に面した大きな壁があります。
長い年月の中で少しずつ傷みも目立つようになり、
「この大きな壁を、何かに活かせないだろうか」
そんなことを以前から考えていました。
そして、2027年に迎える創業60周年。
せっかくの節目だから、この壁を使って何か新しいことを始めてみよう。
そう思ったことから、今回の壁画プロジェクトが始まりました。

きっかけは、SNSで見つけた一人のアーティスト
今回お願いしたのは、福岡で活動するアーティスト、よかペイントさん。
SNSで作品を見て、その自由な表現に惹かれました。
そこで、思い切って連絡。
お願いしたのは、実はそれほど細かなことではありません。
伝えたのは、
「和のイメージで」
ということ。
「鮨を描いてほしい」
「清吉らしいものを描いてほしい」
「魚を描いてほしい」
そんな具体的な注文はしませんでした。
なぜなら、せっかくアーティストにお願いするなら、アーティスト自身の感性や表現を大切にしたかったからです。
清吉の壁ではあります。
でも、ここで描かれるものまで「清吉らしさ」に縛ってしまったら、本来のアーティストとしての良さが失われてしまうかもしれない。
だから今回は、
清吉とよかペイントさんのコラボレーション。
そんな気持ちで、壁を委ねることにしました。


最初は「……これは何になるんだろう?」
制作は、7〜10日ほど。
最初に壁に現れたものを見たとき、正直、
「……何になるんだろう?」
と思いました。
いや、もっと正直に言えば、
「これ、落書き……?」
と思ったくらいです(笑)。
もちろん、アーティストにとっては、そこから始まっている。
私たちにはまだ見えていない完成形が、描いている本人には見えていたのかもしれません。
少しずつ線が増えていく。
色が入っていく。
形が変わっていく。
そして、ある時から、
「あれ?」
と思うようになりました。
だんだん、何かが見えてきたのです。
制作途中の写真を何枚か残しています。
最初の状態を知っているからこそ、完成までの変化を見ると面白い。
何になるのか分からなかったものが、少しずつ一つの姿になっていく。
それは、料理にも少し似ているのかもしれません。

壁一面に、鯛が現れた
そして完成した壁を見て、そこにいたのが――
鯛でした。
壁一面を泳ぐような、大きな鯛。
最初から「鯛を描いてください」とお願いしたわけではありません。
完成してから、よかペイントさんに聞きました。
なぜ鯛だったのか。
答えは、
「鯛。『めでたい』もあるし、今回はこれで行きます」
というものでした。
なるほど。
2027年の創業60周年に向けて始めた、最初の壁画。
その最初の一枚が「鯛」。
なんとも縁起のいいスタートです。

「一貫一話」から、壁にも一話を
清吉では、これまで一貫の鮨にも、それぞれ物語があると考えてきました。
どこから来た魚なのか。
なぜ今、この季節なのか。
どんな仕事をしているのか。
そして、なぜこの一貫をお客様に食べていただきたいのか。
それを一貫一話として、少しずつ伝えてきました。
今回の壁画も、考えてみれば同じなのかもしれません。
この鯛にも、物語があります。
古くなってきた壁を、どう活かすか。
そこから始まり、
60周年という節目。
そして、
一人のアーティストとの出会い。
「和」というイメージだけを伝えて、あとは自由に委ねる。
何が描かれるのか分からないまま、7〜10日間を見守る。
そして最後に、
一匹の鯛が現れた。
だから今回の壁画は、清吉にとって、
「一貫一話 特別編」
なのだと思っています。

この壁は、これで完成ではありません
今回の鯛を見て終わり、ではありません。
この壁画は、季節に合わせて描き替えていく予定です。
細かなスケジュールは、まだ決まっていません。
次に何が描かれるのかも、まだ分かりません。
春になったら、また違う景色になるかもしれない。
夏には、まったく違う作品になるかもしれない。
今の鯛を消して、新しい作品がこの壁に現れる。
そうやって、この壁そのものが季節とともに変わっていく。
「60周年記念の壁画を作った」
というより、
「60周年をきっかけに、変わり続ける壁を始めた」
という感覚に近いのかもしれません。

すでに、街の人が見ている
完成してまだ間もないので、お客様からの反応はこれからです。
それでも、少しずつ変化が起きています。
店の前を通る人が立ち止まる。
写真を撮る。
信号待ちの車からも、壁を見ている人がいる。
もちろん、まだ「壁画を見に来る人」がたくさんいるわけではありません。
でも、道路に面したこの壁に、今までとは違う視線が集まっている。
それだけでも、今回やってよかったと思っています。
そして、これからこの鯛を見た人が写真を撮り、その写真がSNSに投稿され、福岡の外へ、そして日本の外へ広がっていったら面白い。
そう思っています。

福岡の郊外にある、小さな街寿司から
清吉は、福岡市の中心部にある店ではありません。
早良区原という、昔から人々が暮らしてきた街で、1967年から鮨を握ってきました。
いわゆる「街寿司」として始まり、世代を重ねながら今日まで続いてきた店です。
そんな店が、これからどうなっていくのか。
私は、こんな未来を想像しています。
福岡の郊外に昔からある小さな街寿司が、世代を経て、世界の人に知られていく。
そして、いつか、
その店自身が世界へ出ていく。
そんなことができたら、きっと楽しい。
大きな店になることだけが目標ではありません。
福岡のこの場所で、長く続いてきた店だからこそ伝えられるものがある。
日本の四季。
魚のこと。
鮨のこと。
和食のこと。
そして、日本の食文化そのもの。
それを福岡から世界の人に知ってもらえたらと思っています。
日本の鯛が、世界中で泳ぐように
今回、壁に現れたのは一匹の鯛です。
でも、この鯛を見ていると、少しだけ清吉自身の未来にも重なって見えてきます。
鯛は、日本では昔から「めでたい」と結びつく魚。
お祝いの席にも登場する、日本人にとって馴染み深い魚です。
そんな日本の鯛が、今、清吉の壁で大きく泳いでいます。
福岡の街を行き交う人に見てもらい、
いつか誰かが写真を撮って、
その写真が日本のどこかへ、
そして世界のどこかへ届く。
そう考えると、少し夢があります。
日本の鯛が世界中で泳げるように。
そして、
清吉も、いつか世界へ泳いでいけるように。
1967年に福岡のこの街で始まった小さな鮨屋が、60年という時間を重ね、次の時代へ向かっていく。
その最初の一歩が、
この壁に現れた一匹の鯛なのかもしれません。
60周年記念壁画プロジェクトは、まだ始まったばかりです。
次の季節、この壁には何が現れるのか。
私たちにも、まだ分かりません。
だからこそ、楽しみです。
次の一話も、ぜひ見に来てください。
一貫一話 特別編
「壁に、鯛が泳いだ。」
福岡・早良区の街角で、今日も鯛が泳いでいます。
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