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鮨と和の食 清吉

福岡市早良区原1-22-26

TEL.092-821-5064

一貫一話 第三話

一斉スタートにこだわる理由

〜料理を同時に出したいのではない。同じ時間を届けたい。〜

第一章 時代が変われば、寿司屋も変わる。

父の頃の清吉は、地域に愛される「町寿司」でした。

出前があり、家族のお祝いがあり、仕事帰りにふらっと立ち寄る常連さんがいる。そんな時代です。

私が店を継いだのは、ちょうどリーマンショックの頃でした。

それから世の中は大きく変わりました。

飲酒運転の厳罰化、回転寿司の発展、スーパーやコンビニで寿司が買える時代、そしてデリバリーという新しい文化。

寿司は「特別な日のごちそう」から、「日常の食事」へと変わっていきました。

もちろん、それが良い悪いという話ではありません。

時代が変われば、お客様も変わります。

だから私は考えました。

「郊外にある清吉が、わざわざ来ていただける理由は何だろう。」

その問いが、今の清吉の原点です。

※改装まえの旧 清吉鮨 昔ながらの町鮨

第二章 コロナが教えてくれたこと

コロナ禍は、料理人として忘れられない時間でした。

営業時間は何時までなのか。

お酒は提供できるのか。

席の間隔はどうするのか。

PCR検査、消毒、感染対策。

毎日のように状況が変わり、そのたびに判断を迫られました。

一方で、ルールを守らず営業している店が繁盛している姿を見て、複雑な気持ちになったこともあります。

それでも私は、お客様との信頼だけは失いたくありませんでした。

目先の売上ではなく、この先も選んでいただける店でありたい。

その思いだけは変えませんでした。

そして営業できない時間があったからこそ、私は一つの決意をしました。

「後悔しないように、本当にやりたい店をつくろう。」

失敗してもいい。

でも、挑戦しなかったことだけは後悔したくありませんでした。

第三章 勇気のいる決断でした

一斉スタート。

ランチは二部制。

コースは一本化。

価格も見直しました。

当然、反対されました。

スタッフも不安でした。

友人も心配してくれました。

私自身、一番怖かったのは、お客様が来なくなることでした。

実際に、お客様は減りました。

「この判断は間違っていたのではないか。」

そう思った日もあります。

それでも私は続けました。

なぜなら、やらなかった後悔だけはしたくなかったからです。

第四章 一斉スタートだからできること

一斉スタートにして、料理が変わりました。

炭火で焼き上げた魚を、一番香りが立つ瞬間に。

蒸したての茶碗蒸しを、一番おいしい温度で。

握りも、一番良いタイミングでお出しできます。

さらに、大きな鍋や小鍋を使った料理では、八人分の食材を目の前で調理し、一人ひとりに取り分けるライブ感も生まれました。

料理は完成品だけではありません。

香り、音、湯気、調理の様子。

そのすべてがおまかせの魅力だと思っています。

また、一斉スタートだからこそ、料理の流れ全体を考えるようになりました。

ランチは二回転のため限られた時間ですが、海外のお客様は昼からお酒を楽しまれる方も少なくありません。

おすすめを聞かれた時に、誰が対応しても同じようにご案内できるよう、スタッフミーティングでも料理やお酒の情報を共有しています。

料理一品ではなく、コース全体で一つの物語になるように。

それが今の清吉の考え方です。

さらに、少しだけ「間」をつくることで、お客様が写真を撮る時間も生まれました。

InstagramやYouTubeが広がる時代。

料理の本質は変えず、伝え方は進化させてきました。

第五章 一つの料理が、人と人をつなぐ

一斉スタートにして、一番驚いたのは料理ではありません。

人と人との距離でした。

同じ料理を、同じタイミングで味わう。

歓声が上がる。

拍手が起こる。

すると自然と、お客様同士が話し始めます。

ある日、日本人のお客様が隣に座った韓国のお客様と意気投合し、食事のあと福岡タワーまで車で送ってあげたことがありました。

後日、そのお客様が再び来店され、

「あの時仲良くなった方と、今でも連絡を取っています。」

と笑顔で話してくださいました。

韓国や台湾の料理人との交流も生まれました。

私は寿司を握っています。

でも、本当に作りたいのは、人と人がつながる時間なのかもしれません。

第六章 新しくても、どこか懐かしい

私は流行を否定しません。

SNSも大切です。

写真も大切です。

でも、清吉は流行の最先端を追い続ける店ではありません。

六十年続いた店だからこそ、十年後も選んでいただける店でありたい。

節分。

ひな祭り。

端午の節句。

昔は当たり前だった日本の季節の行事も、少しずつ身近なものではなくなってきました。

だから私は料理を通して、季節や文化を伝えたいと思っています。

「子どもの頃、おばあちゃんの家でこんなことがあった。」

「昔はこんな料理を食べたな。」

そんな記憶が自然によみがえるような料理。

新しいのに、どこか懐かしい。

それが私の目指す料理です。

記念日でご利用いただくお客様が笑顔で帰られること。

スタッフ全員で「今日は良かったね」と思えること。

そして、退職したスタッフが食べに来てくれること。

それもまた、私にとって何より嬉しい瞬間です。

第七章 SEIKICHIという目的地へ

私には一つの夢があります。

「福岡へ行くなら清吉。」

もちろん、それも嬉しい言葉です。

でも、私が本当に目指しているのは、

「旅の目的がSEIKICHIになること。」

料理がおいしいだけではありません。

日本の文化を感じる。

季節を知る。

人と出会う。

その一日が、旅の思い出になる。

そんな時間を届けたいと思っています。

私は一貫ずつ寿司を握っています。

でも、本当に届けたいのは寿司だけではありません。

香り。

音。

会話。

笑顔。

文化。

出会い。

そのすべてを含めた一つの時間です。

だから私は、一斉スタートにこだわります。

料理を同時に出したいからではありません。

同じ時間を、同じ感動を、皆様と分かち合いたいからです。

そしていつの日か、世界中の人が、

「日本へ行くなら、SEIKICHIへ。」

そう思ってくださる店を目指して。

今日も私は、カウンターに立っています。

一貫一話

一貫の寿司には、一つの物語があります。

魚のこと。

季節のこと。

器のこと。

職人のこと。

そして、お客様との出会いのこと。

この物語が、皆様の旅の思い出の一つになれば幸いです。

鮨と和の食 清吉(SEIKICHI)
岡本 毅

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